演劇レビュー1.”今、出来る、精一杯。”

2020年4月11日


Twitterで歯にもの着せぬツイートで印象的な春名風花さんの舞台を見に新国立演劇上へ。Twitterの表現も魅力的だけど、彼女が舞台で演技を通じてどんな表現をするのか、本業は女優さんだし、きっと別のインパクトを与えてくれるんじゃないかと期待は膨らむ。

新国立劇場 中劇場

スーパー“ママズキッチン”で働く個性豊かなメンバーと女性に依存しないと生きていけない男、安藤(清竜人)そして安藤の面倒を見る女性はな(酒井真紀)2つのストーリーが絡み合いながら、舞台が進行していく。

これが演劇というものなのか、登場人物全員が体当たりの演技で、演技が終わった後は余韻に浸るというよりも、むき出しの感情をそのままぶつけられ、僕はこの気持ちをどうすればいいのか、この感動いったいは何なのか、今、できる精一杯を頑張るんだーーーーー!(洗脳完了)、叫びたい気持ちを抑えながら、しばらく途方に暮れてしまった。

映画だとすべての出来事はスクリーンの向こう側で、自分と作品の間に仕切りがあり、僕らはその作品をいわば客観するわけだけど、演劇だと舞台の上の出来事と観客の間を遮るものがなく、直接その世界に自分も参加しているように感じてグイグイと客観から主観へと引き込まれる。これはすごい事だわ。

さて、春名さん目当てでいったわけなので、その感想を。。。

春名風花さんの演じる杏はママズキッチンで働くバイトのメンバーで、他の個性的という表現の範疇さえも大きくはみ出した、とにかくアクの強いメンバーに振り回される役周り。

杏はこの作品の登場人物の中で一番“まともな人”であり、一番“正しい”行動をとっているように思える。彼女が自分が状況をややこしくすることはなく、ややこしい人たちに正面から向き合っていき、そして異常な状況の中で、まともな人がその常識の立ち位置から離れられず逆に異常が正常になった世界の中での異常”になり疎外されていく、そんな登場人物を演じるのはやはり春名さんなのかなと配役の妙を感じた。

特に、最後「こんなのおかしいよ!」と叫ぶシーンがあるのだけど、見てる側にしても舞台の上でおこってる出来事はまさに「こんなのおかしい」以外の何物でもなく、僕らを代表してツッコミありがとうってあたりはTwitterでの春名さんを重ねてしまってクスっとくる。あれはまさに僕らの春名さん。

この舞台で一番考えさせられた事は登場人物たちの共存関係。舞台の登場人物は自分の事しか考えていない。そして自分の自分ではどうしようもならない”面倒くささ”を受け入れてくれる人間を自分の都合で求めている。これを自分に重ねると「僕はカレーを食べる時にルーは右、ご飯は左じゃないと気持ち悪くて、逆で出てくるとお皿を回転させて自分ポジションにしてるんだけど、そういうとこに気が付いて僕を不快にさせずに思った通りにしてくれる人いるんだろうか?」と考える。普通はそんな人はいないから、人といる時は自分の面倒くささをあきらめるか、そもそも人にカレーを作ってもらわないという選択肢をとってしまう。でも、この舞台の登場人物はそれをそのまま受け入れてくれと願う。その代わりに自分自身の面倒くささを引き受けてもらう。ふと、あ、それでいいんだと気が付いてしまった。仮に思い通りに動いてくれなくて不快な気分になったとしても、その自分のままそのまま受け入れてもらえばいいんだと。自分にとっても思わぬ自分を再発見できる場になってくれた。それは自分が彼らの演技で揺さぶられたからだと思う。

中劇場に向かう通路にあったディズニーミュージカル”アイーダ”のプロモで作られた石像はなかなかのインパクト。。。