映画レビュー⑤フェーンチャン僕の恋人

2020年4月11日


2003年に大ヒットした映画です。日本でもミニシアターブームに乗っかって上映され、当時レンタルビデオ店で見かけた記憶があります。日本でも知名度の高いタイ映画の1つと言えるでしょう(たぶん)。この映画は6人の映画監督によって作成され(どうやって意見をまとめたのだろう)、そのうちの一人は「すれ違いのダイアリーズ」の監督のニティワット・タラトーンです。どこか懐かしい爽やかな作風はこの作品でも感じることができます。

都会で働くジアップの下に母親から電話がかかってきます。「あなた覚えているかしら?子供の頃一緒だった幼馴染のノイナー。結婚するらしくて招待状が来てるけど、あなたどうする?」

興味が無いような回答をしましたが、ジアップにとってノイナーは忘れられない大事な思い出の人でした。ここからジアップの回想が始まります。

ノイナーとジアップは家が隣同士で生まれた頃からずっと一緒の幼馴染。少し臆病で内気な男の子ジアップと常に明るく女の子仲間の間でもリーダー的な存在のノイナー。ジアップは同世代の男の子には溶け込めず、ジアップや女の子たちとままごとやゴム飛びをして遊んでいました。

ジアップとノイナーが仲の良い事を冷やかすジャックたち男の子のいじめっ子集団。しかしジアップはだんだんと女の子との遊びに飽き、男の子の集団の仲間入りがしたいと思うようになります。ある日、人数が足りずに参加したサッカーの試合でジアップが活躍した事から、ジャックたちとの距離が縮まっていきます。そして彼らが課した男としての試験をクリアすれば仲間入りが認められることになります。1つ目、2つ目の試験を次々とクリアしていくジアップ。

最後の試験は女の子たちの遊ぶゴム飛びの紐を切ることでした。ゴム飛びの紐を切ったジアップにノイナーは泣きながら抗議します。ジャック達もノイナー泣き始めた為、やりすぎた感を隠せません。その日以降、ジアップとノイナーは口を利かなくなります。

2人は仲直りすることができないまま、ある日ノイナーは引越すことになります。引越当日、ジアップは寝坊をしてしまい。ノイナーにお別れの挨拶ができませんでした。

出発するトラックを追いかけるジアップ。悪ガキ軍団も合流し、バイクで懸命に追いかけます。

しかし結局、ノイナーのトラックに追いつくことはできず、ジアップは「ごめんなさい」が言えないまま。この出来事がずっと心に残ります。そして月日は流れ。。。

ノイナーの結婚式。ジアップは当時の事を思い出しながら会場に向かいます。会場でノイナーを探すジアップ。ウエディングドレスの女性の後ろ姿を見つけます。ジアップの視線に気が付き、振り返る女性。振り返りジアップの名を呼ぶ女性。

ジアップの心の中に子供の頃のノイナーの姿がありありと蘇ってきました。どんなに時間が過ぎてもジアップにとってノイナーはおさげで赤いほほのあの頃のままの姿でした。

あまりジアップとノイナーの甘酸っぱいイチャコラシーンは出てこず、ジアップが悪ガキ軍団のジャック達に受け入れられ、友達になっていく過程に重点が置かれています。おそらくこの映画のテーマは幼い日の初恋ではなく、ジアップの成長だと思います。幼馴染だけが友達だった子供から男の子らしい遊びに興味を覚え少年になっていく中でノイナーとのすれ違いが生じていく。それは寂しいことではあるけれど、仕方ない成長の中の出来事のように感じます。ノイナーとの別れの後、ジアップは新しい経験、出会いを重ねだんだんとノイナーの事を忘れていきます。でも「ごめんなさい」の一言が言えなかったことが大人になっても心の中でずっと引っかかっていました。映画の最後の最後、ジアップがノイナーにあてた結婚式のカードが映ります。そこには「おめでとうノイナー」の文字。あれから十数年がたち、幸せを掴んだノイナーに心の底から感じた気持ち。やっとノイナーに伝えられた本心だと思います。このシーンで全てのわだかまりが解消された気がしました。

この映画はタイ映画史に残る名作です。